今月は日本と世界のSDGsの取り組みについてお話しします。嬉しいことに、インバイトジャパンはさまざまな国から来たスタッフが居る国際色豊かな会社ですので、それぞれの出身国のSDGsを取り巻く状況に関する記事をお届けすることにしました。今回はアメリカ合衆国です。
私がアメリカを離れて日本に移住したのは、SDGsという概念が生まれる数年前の2012年でした。そのため現在アメリカでSDGsがどのように受け止められているのか、人々がどれだけSDGsを知っているのかについては、私はうまく説明できません。ただ他の問題と同じように、知識が豊富な人もいれば、関心のない人もいると推測しています。そこで今回のブログでは、国や各地方自治体が17の目標を達成するために何をしているのかに焦点を当てます。
アメリカは高度に発展した裕福な国です。そのため国連が定めた17の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて順調に進んでいるのではないかと思われるかもしれません。しかし驚くべきことに、アメリカはこれらの目標への到達状況において、全世界の国の中で35位にランクされています。これは世界の先進国の中で最も低い順位です。
なぜこのような低い順位になっているのでしょうか?理由はいくつかありますが、いずれも気候変動や都市の持続可能性に関わる問題に対して、国がリーダーシップを発揮できていないことが関係しています。長年渡り、目標に含まれる問題を解決するための計画を誰も打ち出していないのです。
国家の課題、地域の責任
気候変動が国家レベルで議論の的になっている中、持続可能性の問題に対処するための大きな立法案は出されていません。さらに、オバマ政権は当初パリ協定に参加していましたが、トランプ政権は就任と同時にパリ協定から離脱しました。その4年後にはバイデン大統領が再び協定に参加しましたが、このような行き違いにより、政策には一貫性がありません。
これに加えて地域開発や都市の持続可能性の問題に関しては、一般的に国ではなく自治体が最も大きな力を持っているという事実もあり、SDGs達成の責任は州政府と主に地方自治体に掛かっています。
したがってSDGsの多くを達成しようとする試みに成功している地域もあれば、遅れをとっている地域もあり、全米の州や地域、都市によって大きな格差が生じているのです。
アメリカの都市全体のSDGs達成度は100点満点中平均48.9点と、あまり良いものではありませんでした。「安全な水とトイレを世界中に」の項目では平均して高い評価を得ていますが、「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」など、その他の項目では低い評価となっています。
では具体的に良い点と悪い点を見ていきましょう。
カリフォルニア州ベイエリア・シリコンバレー
2019年のアメリカ都市のSDGsランキングでは、カリフォルニア州北部のベイエリア(サンフランシスコ・オークランド・ヘイワード)とシリコンバレー(サンノゼ・サニーベール・サンタクララ)がそれぞれ69.7点、67.9点で上位にランクインしました。
これは30番台後半や40番台にランクインした都市に比べれば良い結果ですが、それは同時にアメリカのどの都市も2030年の期限に目標を達成できる可能性が低いことを示しています。またこの2つの都市圏が好成績を収めた項目は「貧困をなくそう」と「すべての人に健康と福祉を」で、いずれも正確な測定が難しいものでした。
これらの都市圏は他の地域同様、環境保護や交通・輸送機関といった持続可能な都市開発に重要な分野において、世界のほとんどの地域に遅れをとっています。2019年の報告書によると、SDGsで示された持続可能な交通・輸送機関の目標に向かって前進しているのは、ベイエリアとニュージャージー州ニューアークの2つの都市圏のみです。国内のほとんどの地域では、公共交通機関と交通手段全般が十分に整備されておらず、これは良くない兆候と言えるでしょう。
カリフォルニア州北部は、持続可能性や環境規制に関しては先進的だと思われています。しかしこの報告書は、この地域が真のリーダーになることを妨げる別の問題の存在も示しています。人種間の不平等や、持続可能性が欠如した、取り残された地域(限界集落など)に与える不平等な負担など…特にサンフランシスコのような都市では、大都市圏が高得点を得られなかった他の理由があるのです。
ミシガン州デトロイト
私の故郷はデトロイト周辺なので話がしやすいのですが、それだけでなく、この街はアメリカに多くある古い「遺産的都市(かつて産業で大きく栄え、その後衰退していった都市)」を表した例として最適でしょう。ちなみにデトロイトはミシガン州最大の都市です。先程と同じSDGs達成率に関するアメリカの都市ランキングでは63位で、スコアは46.5と平均以下でした。
デトロイトはかつて自動車産業の中心地であり、多くの人々に工場や工業用の仕事を提供していました。これにより都市は拡張されていきましたが、やがて工場は低賃金の労働者を求めて国内の他の地域、さらには世界の他の地域に移転していくことに。その結果、雇用、人口、市の歳入は減少の一途を辿りました。
これはボルチモア、フィラデルフィア、ピッツバーグ、クリーブランド、トレド、インディアナポリスなど、他の古い遺産的都市、「ラストベルト(Rust Belt/錆びついた工業地帯)」と呼ばれる都市と同様です。これらの都市では税収の減少に伴い、適切な都市サービスの維持やインフラの整備が困難になっています。
デトロイトをはじめとする多くの古い都市は復活を目指していますが、古い配管や下水設備、空き地、工場跡地の産業廃棄物などに対処しなければならず、その上深刻な貧困問題を抱えています。このような状況では、求められているようなスピード感でSDGsの目標達成に向けて行動することは非常に困難です。
しかしそれでもデトロイトは少しずつ前進しています。この街のリーダーたちは、新しい住民やビジネス、開発を呼び込むための唯一の道は、この街をグリーン・シティ(環境にやさしい未来型都市)にすることであるとしっかりと理解しているようです。
彼らは「Detroit Sustainability Action Agenda Framework(デトロイト持続可能性行動方針の枠組み)」と呼ばれる計画を作成し、以下の4つの目標を掲げました。
- 健康で生き生きとした人々:食と健康の不平等への対処、栄養に関する教育の強化(デトロイトは全米で最も肥満の多い都市のひとつ)、大気環境の改善、経済的な機会の増加(グリーンジョブと呼ばれる地球環境の保全・修復に役立つ雇用の創出、職業訓練へのアクセスの改善)
- 手頃な価格で質の高い住宅:住宅コストを削減し、手頃な価格帯を拡大し、既存の住宅をより安全で健康的なものにする
- 清潔で繋がりのある地域 :空き地を安全で生産性の高い持続可能な空間に変える、公共交通機関を改善する、廃棄物やゴミを減らす
- 平等で環境に優しい都市:インフラをより環境に優しく、気候変動に強いものにし、温室効果ガスの排出を削減する
デトロイトは多くの都市のSDGsへの注目度の高さを表す指標であると私は思います。彼らは多くの課題があることを知っているからこそ、自分たちの優先順位に合ったSDGs目標に焦点を当てているのです。
未来への希望
このブログでは少し批判的な意見を述べてきましたが、そろそろポジティブな意見で締めくくりたいと思います。確かにアメリカには、解決しなければならない問題がたくさんあります。しかし、トップから組織された政策が必要だということに気が付きつつあるようです。
私がこの原稿を書いている間にも、1.5兆ドル(約165兆円)の巨大なインフラ法案が議会で交渉、調整されています。この法案が可決されれば、地域のインフラや交通システムを改善するための資金や資源が多く提供されることになります。またさらに、3.5兆ドル(約384兆円)規模という別の巨大な法案も提出されています。この法案では電気自動車の増加などの気候変動対策プロジェクトや、保育園や高等教育に資金が提供され、アメリカの医療インフラが改善することになります。
これらはまだ成立はしていません。しかしこれらの計画は、アメリカをより持続可能な国にしようという決意と、そのために何ができるかという人々の想像力が広がっていることを示しています。