「対立変化」は、対立を緩和することができる持続可能な方法と、根本的な原因に対処する新しい構造を作り出すことを目指す、比較的新しい対立の見方です。
チーム内の対立というと、「対立解消」と「「対立管理」という、最も一般的なフレームワークを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。実際、この2つの概念に関する情報は豊富にあります。以前の記事でもご説明したように、「対立解消」は深刻な対立の解決に、「対立管理」は対立を生産的に利用するために、それぞれ有用な手段です。
しかし、この2つのフレームワークが対処できない可能性のある重要な根本的問題があるとしたらどうでしょう?また、長期的にはこれらの枠組みが、将来対立の発生を防ぐ可能性のある重要な構造的変化を見過ごしているとしたらどうでしょうか?
これが第3の、そして比較的新しい、対立に対処するための枠組みである「対立変化」の中心的な主張となっています。
そこで、今回のブログでは「対立変化」とは何かについて説明します。また、「対立変化」は比較的新しい概念であり、一般的なチームにはまだあまり適用されていないので、チームがこのアプローチを使うための具体的な学びをいくつかピックアップすることにします。是非参考にしてみてください。
「対立変化」とは?
ここで重要ポイントとして、「対立解消」と同様に「対立変化」も国際関係学や対立研究の分野から生まれたということをお伝えしておきます。つまり、特にソマリアでの民族間で起きた実際の対立から生まれたものということです。今でもこの文脈で使われることが多いのですが、根本的な問題を解決したい、問題に対処するための新しい構造を作りたいと考えているチームには、多くの応用が利くものとなっています。
2000年代初頭にジョン・ポール・レデラック氏によって大きく発展した「対立変化」は、対立を空虚に扱うのではなく、文脈の中に置くことを目指しています。実際「対立変化」は、「対立解消」の「広い視点を欠く」と言う欠点に対処するために策定されたものです。
なぜなら「対立解消」は、対立の個々のポイントや出来事に対処するのは得意かもしれませんが、その対立を引き起こしているより深い問題には対処できていなかったからです。また、対立の合意や解決のみに焦点を当ててしまうと、そういった深い問題が覆い隠され、より全体的で真に変化をもたらすようなアプローチが形づくられなくなると言う懸念もあります。
「対立変化」の理論
「対立変化」がどのように機能するかを理解するには、その基盤となるいくつかの中心的な考え方を理解する必要があります。そして、これらの考え方がどのように結びついているかというのは実に興味深く、チームが真の変化を実現するための多くの教訓を与えてくれるでしょう。
「対立変化」の視点
「対立変化」は、対立に対処するための実際のプロセスであると同時に、対立に対する考え方の一つでもあります。「対立解消」の視点の主な要素は以下の2つです。
1. 対立に対して積極的な志向を持つ
これは対立を「人間関係の自然な流れ」としてとらえることを意味します。「対立管理」と同様に、対立を学習と成長の機会としてとらえるという意味でもあります。「対立管理」において、対立自体は悪いことではありません。なぜなら、対立は解決すべき深い問題の症状を指摘することも多くあるからであり、それがこのアプローチの目的の一つにもなっています。
2. 生産的な変化をもたらすために、対立に関与しようとする意志を持つ
「対立変化」のアプローチとして機能させるためには、対立に関わるすべての側が対立を認め、それに関与し、持続的かつ変革的な変化を見出すために動く意志を持つことが必要とされます。「対立変化」では即効性のある解決策はないので、チームのメンバー全員が目の前の問題に本気で取り組む覚悟と意志を持つ必要があるのです。
対立によって何が影響を受けており、何を変えたいのかを理解する
「対立変化」のもう一つの大きな側面は、対立によって何が、あるいは誰が影響を受けているかを理解することです。これは対立がどの程度深いのか、その周囲の状況はどうなっているのかを理解し、実際に対立に対処する際に、自分は何をどのように変えたいのかを意識するようになることを意味しています。つまり、自分が何を変えたいのかを知ることで、それを変えられるようになることを目指したいのです。
「対立変化」では、対立が4つの異なる(しかし相互に関連する)層に影響を及ぼすと考えます。
- 個人的な層…対立によって各個人はさまざまな影響を受けます。対立に対してどのように感じ、考え、反応し、どのような個人的な経験をするかなど。たとえば、2 人のチーム メンバーの争い(喧嘩)になった場合、対立についてのそれぞれの感じ方は異なり、さまざまな方法で影響を受ける可能性があります。また、争いになったのには「嫌なことがあった」「寝不足だった」など、個人的な理由があるかもしれません。
- 関係性の層…対立は人間関係に影響を及ぼす場合があります。たとえば上記のような争いの状況では、おそらく他のチームメンバーが争いをしている2人のことを気にし始めたり、違う扱いをしたりするでしょう。あるいは、他のメンバーが、その2人との関係に基づいて、どちらの側につくかを決め始めることもあります。
- 構造的な層…対立に関与していたり、或いは影響を受ける制度や社会構造があります。良いリーダーシップの欠如やメンタルヘルス対策など、争いには構造的な理由がある場合があります。また、対立が監視の強化やストレス解消のための休暇の増加など、構造的な変化をもたらすこともあるでしょう。
- 文化的な層…この層は、集団行動と、集団全体が対立に対してどのように行動し、反応するかに関連しています。対立の文化的原因としては、攻撃的な対立やいじめを助長するチーム文化や、過重労働などがあります。対立の文化的原因に対処するにはより時間がかかりますが、方法としてはトレーニング、チームビルディング、信頼と共感のより強い基盤の構築などが考えられます。
「対立解消」のための3つの要素
このように対立の層とその相互作用を知った上で、「対立解消」は以下の3つの構成要素に基づいて対立をマッピングすることを目指しています。
1. 現在の状況を知る
これは対立が起きること、あるいは既に起こっていることを他のチームメンバーが認識できるようにするという意味です。上記の例で続けると、これは「争い(喧嘩)」そのものとも言えます。この「争い」は単なる一過性のイベントという場合もあれば、より深刻な問題を示している可能性もあるでしょう。しかし、いずれにしてもそれは何らかの警告であり、チームの永続的な変化を見出す機会となり得ます。現在の状況を見るとき、対立の話題そのものに対する短期的な解決策を見つけると同時に、より長期的な変化も考えることが重要です。
2. 将来のビジョンを描く
これはチームがどこに到達したいのか、どうなりたいのか、ということを意味します。つまり、目標や願望を含め、チームが将来どのような自分たちを思い描いているかということです。このビジョンを持つことで、チームはより前向きな姿勢で対立に臨むことができるようになります。ただ早く問題を解決しようとするのではなく、将来のビジョンを維持することで、チームはこのビジョンとその価値観に沿った、より持続可能な解決策を提案できるようになるでしょう。
3. 変化のプロセスに焦点を当てる
これはチームが現在の解決策と将来のビジョンの橋渡しをどのように行いたいかということを意味します。言い換えれば、チームが対立しているA地点から、その対立に対処し、永続的な変化がもたらされたB地点まで、どのように到達するかということです。変化の実際のプロセスに焦点を当てることで、チームは実行可能な真の解決策に基づき、前進し続けることができるようになります。
この構成を理解する鍵は、プロセスは決して完全に「終わり」ではないことを知ることです。チームが成長し続け、ビジョンに向かって突き進む中では、さまざまな対立が発生する可能性があります。それにより、チームはビジョンや変革のプロセスを見直す必要が出ることもあるでしょう。このように、プロセスは循環的であると同時に直線的でもあるものです。対立に対処し続けることで、チームは自らを前進させ、新たな対立を包含するように将来のビジョンを拡張していくことができます。その結果、チームは絶えず変化し、成長することができるのです。
チームにおける「対立変化」実践方法
ここではこのアプローチから得られる、チームが何度も同じ対立を繰り返さないための、より持続的かつ実践的な教訓をピックアップしてみましょう。
1. チームに対して責任を持つ
「責任」とは、これまで話してきた対立に対処するすべての方法の鍵であり、「対立変化」も例外ではありません。しかしここでは、個人の行動に責任を持つだけでなく、チーム全体に対して責任を持つことが重要です。そうすることで、チーム全員がチームの将来を考え、対立や問題に積極的に対処する環境が整います。また、変化を起こす際にも、チーム全体の視点を持つことができるようになるでしょう。
2. 人間関係を軸にしたチームを作る
「対立変化」は、人と人とのより良い関係を構築することで、持続可能な変化を生み出し、対立を予防することを目的としており、その中心は「関係性」です。同じことがチームにも当てはまります。人間関係こそがチームにとって最も重要なものであり、それを認め、尊重することで、チームは効果的に対立に対処し、共に強い未来へのビジョンを構築することができるのです。
3. 安全な環境を作る
人間関係を良好にし、対立に永続的に対処できるようにするためには、チーム内に安全な環境を作ることが不可欠となります。つまり、信頼に基づき、チームメンバーが自分の考えや感情、意見を安心して共有できる環境を作るということです。これはチームの生産性向上に役立つだけではなく、対立が発生した場合にも、問題を大きくすることなく、対立の真相を究明し、根本的な問題を解決するために必要不可欠なものでもあります。
4. オープンで誠実なコミュニケーションを図る
その上で、安全なチーム環境に不可欠な要素は、オープンで正直なコミュニケーションです。これはお互いに弱音を吐かず、批判も受け入れることを意味します。これだけ聞くと対立を生むだけだと思うかもしれませんが、実は逆なのです。間違ったことを言うのをためらったり、恐れたりしているチームは、その鬱積した不満を他の方法で吐き出してしまう可能性が高くなります。対立に対処するための持続可能な改革は、常に100%オープンなコミュニケーションに基づいているのです。
5. ニュアンスやあいまいさを受け入れる
先ほどは触れなかったのですが、「対立変化」の重要な側面として、曖昧さや「グレーゾーン」に対してオープンであることが挙げられます。特に対立では、正しい側や正しい答えがないことがあります。対立は複雑で厄介なものであることが多いのです。このことを理解し、受け入れることこそが、問題を軽く丸めて投げ捨てるような手っ取り早い解決策ではなく、長期的な変化を実現するためのプロセスの一部なのです。
とは言え、ニュアンスや曖昧さは少し怖いものです。これを変えるために有効な教訓は、対立の解決策を「どちらか一方」ではなく、「双方・両方」と考えることです。つまり、対立には勝者と敗者がいると考えないということ。そうではなく、最終的に全員が勝者になるにはどうしたら良いかを考えるのです。このように、ニュアンスの違いはありますが、ポジティブにとらえることができます。
6. 一緒に未来を思い描く
「対立変化」のフレームワークの大きなステップは、チーム内の対立を解決する際に、将来のビジョンを念頭に置くことです。しかし、そのためにはまず、チームのビジョンを持つ必要があります。できれば、チーム全体が協力して作り上げるビジョンが望ましいでしょう。そうすることで、人間関係の絆が深まり、チームメンバーの納得感も高まります。また、ビジョンを共有することで、対立が発生した際にも、それをもとにコミュニケーションをとることが容易になります。
7. 全員を巻き込む
先ほども述べたように、「対立変化」は各国の民族対立や国内対立を研究することで発展してきたものです。そこで注目されたのが、草の根レベルで永続的な変化を起こすことでした。つまり、上からの命令で解決するのではなく、みんなが参加して初めて永続的な変化が生まれると考えたのです。
チームでも同じことが言えます。対立は経営陣や上司のメモで処理されることが多いものですが、実際、永続的な変化はチーム全体が一丸となって取り組んだときに初めて起こります。全員が参加することで、チームのメンバーはより信頼され、チームの未来をデザインするプロセスの一部であると感じることができるのです。
8. 短期的・長期的な変化を念頭に置く
最後に、チームが短期的な目標と長期的な目標の両方を意識することが重要であることをお伝えしておきましょう。「対立変化」が指摘するように、対立には短期的な目標と長期的な目標があります。短期的な目標は(特に破壊的あるいは暴力的である場合)対立の話題を終わらせることです。対して、長期的な目標は根本的な問題に対処することとなります。繰り返しになりますが、対立に即効性のある解決策はなく、この2つの時間軸を念頭に置くことが重要なのです。
同時に、これはチームの他の側面にも当てはまります。チームは常に将来を見据えるべきであり、目先の仕事に埋没し続けるべきではありません。一方で、チームは現在進行形で、周囲で起こっていることを認識する必要もあります。現在と未来の間には常に押し問答があり、そのバランスをうまくとることができるチームは、効果を維持しながら継続的に成長し、改善することができるのです。