意思決定モデルは、意思決定についてより意識的に考える方法をチームに提供してくれるものです。今回は、チームを鼓舞したり、効果的な意思決定の方法について生産的な議論を起こしてくれる7つの意思決定モデルをご紹介します。
今月のブログでは、これまで「私たちはどのように意思決定をしているのか」という重要な問いを投げかけてきました。意思決定には何が必要なのか。私たちは何を考えているのか。どのような前提で判断しているのか。何を考慮に入れているのか。そして、何を省いてしまっているのか…。
実は、人はそれぞれさまざまな意思決定の方法を持っており、中には経験や感情、あるいは新しいアイデアの発見などに重きを置いている人もいるものです。そして、こういった異なる意思決定の方法を見ることで、そこから学び、自分自身が取っている方法や隠れたバイアスについて、より批判的に考えることができるでしょう。
実は「意思決定のプロセス」についてのブログ記事では、ほぼ完全に「合理的意思決定モデル」に基づいて、意思決定の基本的なプロセスをご紹介しました(下記参照)。しかし、それは意思決定の考え方として絶対的なものと言えるのでしょうか?合理的な方法を重視しすぎるあまり、感覚やフィーリング、直感といった意思決定における他の重要な要素を省いてしまっている可能性も考えられます。
だからこそ、意思決定のさまざまなモデルを見ることが重要なのです。これらのモデルは、私たちに少し違った考え方をさせ、これまで行ってきた意思決定の枠から抜け出す手助けをしてくれることもあります。さらには、そうしなければできなかったような、予想外の、あるいは刺激的な決断を下すことに繋がることもあるでしょう。
そこで今回の記事では、最も広く知られている7つの意思決定モデルについて見ていきます。その中には、具体的な手順や実践方法を示した完全なモデルもあれば、より抽象的であったり、他のモデルの欠点を補っただけのものも含まれます。いずれにせよ、これらのモデルはすべてのチームが導入できるさまざまな意思決定方法について、より良い感覚を与えてくれることでしょう。
1. 合理的意思決定モデル
「合理的意思決定モデル」は最も一般的に知られている意思決定方法ではありますが、必ずしも最もシンプルで使いやすいものというわけではありません。なぜなら、このモデルは特に利害関係が強く、複雑性の高い状況において最も効果を発揮するからです。反対に、一つひとつのステップを丁寧に進める必要があるため、迅速な意思決定が必要な場合には不利になることもあります。
とはいえ、「合理的意思決定モデル」はチームメンバーが客観的なプロセスの周りに集まるようにしてくれるものでもあります。そのため、チーム内で厳しい決断を下す際に生じる強い感情の多くを中和することができるでしょう。
基本的な合理的意思決定モデル:
- 問題を定義する
- 使用する基準や情報を探す
- 情報と基準の重み付けをする
- 可能な代替案を考える
- 代替案を評価する
- 最適な解決策を決定する
- 決定案を振り返る
ご覧のように、このプロセスは以前の記事でご紹介したものとほとんど同じです。また、合理的モデルは非常にわかりやすく、意思決定の各側面を決定・評価することを段階的に行っていることもお分かりいただけると思います。
2. 境界型合理性モデル
「境界型合理性モデル」は、合理的モデルの前提が残している課題のいくつかを埋めようとするものです。また、「境界合理性」とは経済学に由来したものであり、個人が必ずしも完全に合理的な方法で思考しているわけではないという状況を説明するものです。
「合理的に考えること」自体は目標や理想に掲げられやすいものかもしれませんが、ほとんどの人は常にそうすることを期待されているわけではありません。なぜなら、この理論によれば、人は完全に合理的な判断をするための十分な情報を常に持っているわけではなく、さらにある種の時間的制約を受けているため、思考が制限されるからです。
その結果、多くの人が「satisficing(満足)」と呼ばれる行動をしがちになります。これは基本的に、私たちが「できる限りの最善の決断」を下すことを意味し、必ずしも最適な決断を下すことではありません。 例えば、あなたがWebデザイナーを探していて、すぐにでも雇わなければならない期限が迫っているとしましょう。しかし、あなたはWebデザインのことを知りもしなければ、この業界の内外について学ぶ時間もありません。そのため、あなたは期限内に(予算などの制約にも基づいて)見つけることができる最高のWebデザイナーを雇うことになるでしょう。その人物はあなたにとって最高のデザイナーではないかもしれませんが、あなたが直面している制約を考えると、「ちょうどいい」決断をせざるを得ないということです。
ここで重要なのは、「境界型合理性」がもたらす問題は、チームのように多くの人が一緒にいることで多少なりとも解決できる、という点です。より多くのリソースや知識ベース、視点を活用し、プールすることで、一人よりも最適な解に近づけることができるようになります。当然ながら、チームにも限界がありますから、「境界型合理性」は意思決定について考える上で、依然として有効な方法なのです。
3. Vroom-Yetton意思決定モデル
「Vroom-Yettonモデル」は、「決め方を決める」ためのモデルとも言えるものであり、チームにおける正しい意思決定の方法を考えるための体系的な方法です。ここでの前提は、すべての意思決定スタイルがすべての状況に適しているわけではなく、チームはさまざまな種類の意思決定を行うために異なるスタイルを使用すべきであるということです。
「Vroom-Yetton意思決定モデル」は、意思決定プロセスに着手する前に、チームが自問すべき7つの「はい」「いいえ」の質問をすることから始まります。
- 意思決定の質は重要か?
- その意思決定に対するチームのコミットメントは重要か?
- 自分一人で決断するのに十分な情報を持っているか?
- その問題は構造がしっかりしているか?
- 自分が決断した場合、チームはそれをサポートしてくれるか?
- チームは組織の目標を共有しているか?
- その決断をめぐって対立する可能性はあるか?
その答えをもとに、チームは以下の選択肢のいずれかに進みます。
- 独裁型1:チームの他のメンバーからの情報なしで、一人で意思決定をする。
- 独裁型2:一人が意思決定を行うが、他のメンバーから具体的な情報を得る。
- 協議型1:最終的な決定は一人が行うが、チームメンバーと個別に話し、意見を聞く。グループでのディスカッションは行わない。
- 協議型2:最終的な決定は一人が行うが、事前にチームメンバーを集め、グループディスカッションを行う。
- 協働型:チームが協力してコンセンサスを得ることで、全員が納得できる意思決定を行う。代表者の役割は意思決定ではなく、進行役。
問題に行き詰まり、どのように進めれば決定が得られるのか分からないチームにとって、このモデルは非常に有用となるでしょう。しかし、やはり限界もあります。質問の中には曖昧な表現も含まれていますし、チームダイナミクスのようなものは考慮されておらず、選択肢の幅が狭く、一人の人間が決断することに重きを置いています。実際の意思決定やリーダーシップのスタイルには、もっと幅広くさまざまなものがあるものです。
4. 直感的意思決定モデル
「直感的意思決定モデル」は、意識的な推論を基礎とせず、感覚やパターン認識、過去の経験や判断に依存するものです。この種の意思決定アプローチは、より合理的な方法や分析的な方法と同じくらい効果的であることを示唆する研究もあります。しかし、直感的なアプローチはより多くの経験を必要とするため、新入社員や新たなチームメンバーはこのモデルをそれほどうまく活用できない可能性があることがポイントです。
とは言え、チームで一緒に意思決定を行うのであれば、異なるレベルの経験を組み合わせることで、直感的な意思決定が可能になり、効果的である可能性が高くなります。また、以前からお話しているように、メンタリングやトレーニングは年長のチームメンバーの経験や制度的記憶をチームに広めることに大きく役立つため、そのような習慣を取り入れれば、経験の浅いチームメンバーに「直感的意思決定」を教えることも可能となるでしょう。
5. 認識主導意思決定意モデル
「認識主導意思決定モデル」は、意思決定に対する直感的なアプローチと合理的なアプローチを組み合わせたものです。「直感的モデル」と同様、「認識主導型モデル」はパターンを認識し、経験を活用することから始まります。しかしその後、その意思決定がこれまでどの程度うまくいったかを分析し、必要な改善を行うために、合理的な思考を重視する点が特徴的です。
認識前提モデルのステップは以下の通り。
- 情報のパターンを認識する。
- 行動方針を決め、「アクションスクリプト」を作成する。
- 「アクションスクリプト」が良さそうなら先に進み、そうでないならスクリプトを微調整するか、最初に戻る。
ここでいう「アクションスクリプト」とは、ある行動をとったらどうなるかという、頭の中のシミュレーションのようなものを指します。誰しもが「こうなったらこうしよう」ということを、頭の中に描いたことがあるでしょう。もちろん、それが現実に即しているとは限りません。だからこそ、現実に即していないことが判明したら、行動計画を修正することが重要なのです。
チームでは、「認識主導型モデル」を使うことで、さまざまな意思決定の結果を一緒にブレーンストーミングすることができます。この方法の利点は、チームメンバーが少し想像力を働かせることで、古いパターンや考え方から脱却し、新しいアイデアに繋がる可能性があるという点です。
6. 回顧的意思決定モデル
「回顧的モデル」も直感的思考と合理的思考を組み合わせたもので、他の選択肢に直面しているにも関わらず、人が特定の選択肢に固執してしまう理由を分析しようとするものです。このモデルは、人が意思決定をする際に「暗黙のお気に入り」に辿り着きがちであることを示唆しています。この「暗黙のお気に入り」は、直感(感情、経験、価値観など)に基づいて選択されているものです。
その結果、他の選択肢や代替案を探しても、心はこの「暗黙のお気に入り」に囚われてしまうことがあります。さらには、例え他の選択肢によってその「暗黙のお気に入り」のメリットやデメリットが明らかになったとしても、最終的にはやはりそのお気に入りが選ばれる可能性が高いことは変わりません。このように、私たちは純粋に合理的な判断をしているつもりでも、実はそうでないことがあるのです。
このモデルは、私たちがどのように他の選択肢よりもある選択肢に固執する傾向があるかを解明するという点で、特に啓発的であると言えます。また、このモデルは必ずしも一歩一歩進む道筋を明確に示してくれるものではありませんが、他のメンバーの視点を理解するという点においても有用です。具体的には、ある選択肢に固執するメンバーがいる場合、その背景にあるものを探ってみることになります。何らかの価値観や感情、個人的な経験によって、暗黙のうちに好きなものに固執している可能性を探るのです。
7. 創造的意思決定モデル
「創造的意思決定モデル」の目標は、新しいアイデアを思いつくことであり、非常にわかりやすいものと言えます。チームの意思決定の中心に創造性を据えることは、チームが前進するためのさまざまな方法を見つけたり、創造的な解決策をブレインストーミングする必要がある場合には、良いアイデアとなり得るでしょう。しかし、創造的意思決定を行うには時間がかかりますし、やはり全ての場面において必ずしも最も効果的な方法であるとは限りません。
以下は、「創造的意思決定モデル」のステップです。
- Identification(識別)…問題と、何をしようとしているのかを識別する。
- Immersion(没入)…情報やさまざまな視点を集め、その問題についてじっくり考える。
- Incubation(孵化)…リソースと情報を集め、繋がりを作り、様々な解決策をブレーンストーミングする。
- Illumination(解明)…最適な解決策を見つけ、それを想像し、創造し始める。
- Verification(検証)…実行したことを振り返り、変更・修正が必要な点を確認する。
興味深いことに、「創造的意思決定モデル」のプロセスは、先に述べた「合理的モデル」と非常によく似ています。その違いは、「合理的モデル」が最適な解決策を見出そうとするのに対し、「創造的モデル」は単純に実行可能な新しいアイデアを見出すことに重点を置いている点です。特にIncubation(孵化)の段階では、創造性を発揮するために、さまざまな思考法やブレーンストーミングを駆使し、オープンで流動的であるべきとされています。
最後に
今回ご紹介した意思決定モデルは、どれもそれぞれの場面において有用であり、個人であれチームであれ、意思決定についてのあらゆる可能性を教えてくれるものばかりです。しかし、チームにはより多くの視点やスキルを活用できるという強みがあります。だからこそ、チームは意思決定に関するさまざまな手法や考え方を学ぶことにオープンであるべきなのです。そうすることにより、たとえそれらのモデルを実際には使用しないとしても、チームがどのように意思決定を行っているか、またそのプロセスをより良いものにするためにはどうしたら良いかを、より深く認識することに繋がるでしょう。