今月はシリーズとして、リーダーシップのさまざまな側面を深堀りしています。この1週間ほどは「セルフリーダーシップ」について、またチームメンバーがより良いリーダーになるためにまず自分自身のリーダーになる方法を学ぶことで、どのようなことができるのかについて、たくさん議論してきました。
ここからはまた少し話を戻して、リーダーシップの主要な理論についてお話ししたいと思います。インバイトジャパンでは通常、あまり理論に深く立ち入ることはありません。理論的なコンセプトに基づくチームビルディングワークショップももちろんありますが、基本的にはチームビルディングの実践的な側面、つまりチームビルディングを深く考えることなく、チームが見て、感じて、体験できるようなアクティビティに重きを置いています。
とは言え、時には理論に目を向けることによって多くのことを学ぶことができます。リーダーシップについては、長い歴史の中で多くの考え方が生まれ、流行り廃りを経てきました。ここではどれが正しいとか間違っているといったことに焦点を当てるつもりはありません。むしろ、それぞれの理論が提起する問題や、チームに投げかける問いに触れていきたいと思います。
つまり、どの理論も理論家が考えたチームやリーダーのタイプについて、何かしら重要なポイントを含んでいるということです。それにより、私たちはこれらの理論を使って、自分たちのチームを見つめ直し、いかに改善できるかを考えることができるでしょう。
では、この考え方を頭に入れた上で、早速リーダーシップの理論を見てみましょう。
1) 特性理論(Trait Theory)
人はいつの時代もリーダーやリーダーシップに魅了されてきました。そのため、リーダーシップに関する初期の理論は、古代史に遡って、いわゆる「偉人」(アレキサンダー大王、シーザー、ナポレオン、ジョージ・ワシントンなど)に注目し、彼らの行動や性格からリーダーシップ特性を導き出そうとしています。具体的には、自信、知性、勇気、思いやりなど、自然に受け継がれると考えられていた特性についてです。
やがて、こうしたリーダーたちが示す特質はアイデンティティやパーソナリティから切り離されるようになりました。そして最古のリーダーシップ論と言われる「グレートマン・セオリー」は、王であろうと経営者であろうと、すべてのリーダーには共通した特性があるとする「特性理論」へと変化していったのです。しかし「特性理論」は、「正しい特性を持った人だけがリーダーになれる」という信念を植え付けてしまう点が問題でした。
私たちはいまだに、優れたリーダーには先天的な才能があると信じていますし、「偉人」(ジェフ・ベソス、イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ウォーレン・バフェット、孫正義など)を偶像化していますが、長期的には「特性理論」から離れ、より協調的で実力主義のリーダーシップ形態を認識する方が良いのです。
しかし、特性理論が強調できる点として、人によってリーダーシップのスタイルに適応できる才能が異なるということがあります。つまり、リーダーになるべき人がいるのではなく、誰もが個々の特性やスキルを活かして、自分に自信を持ち、リーダーとして活躍できるようになることができるということです。
重要ポイント:より民主的で協力的な今日の社会では、特性理論は少し時代遅れで時代錯誤なものになっています。しかし、個人のユニークな才能やスキルを認識し、それをチームの他のメンバーと組み合わせることで、より弾力的で適応力のあるリーダーシップ構造を作り上げることは、今でも有益なことであると言えます。
2) 行動理論(Behavioral Theory)
行動リーダーシップ論は、実は特性論と似ているところがあります。大きな違いは、行動理論が特性ではなく、行動に着目している点です。もう一つの違いは、これらの行動は経験や条件付けから学ぶことができるということです。
リーダーシップに関する行動理論は、1900年代初頭、心理学の分野での行動主義(適切な条件付けによって人は変われるという信念)と共に生まれました。1930年代にクルト・ルインが提唱したリーダーシップのタイプ分けは、20世紀においても深く根ざしていると言えるでしょう。
- 専制的リーダー:チームの意見を聞かずに命令を下し、トップダウンで階層的な指導を行う。
- 民主的リーダー:チームの他のメンバーから意見を募り、最終的には自分が決定するものの、より協力的な雰囲気を作り出す(これはリーダーシップの参加型理論とも呼ばれる)。
- 自由放任型リーダー:チームの他のメンバーに意思決定を任せ、サポート・指導の役割で存在する。
しかし、このリーダーシップ論は、どれか1つのタイプに固定されるものではありません。状況によってそれぞれの行動様式が有効な場合もあります。例えば、危機的状況や緊急時には、迅速かつ果断に命令を下すことができる専制的なスタイルのリーダーの方が良いという場合もあるでしょう。
重要ポイント:リーダーは生まれながらにしてなるものではないので、学び、観察し、経験することによって、誰でもリーダーになることができるものです。さらに、リーダーの行動やどのような「タイプ」に当てはまるかに気づくことは、特定のチームに必要なリーダーシップスキルを認識するための良いステップになります。
3)条件適合理論・状況対応理論(Contingency and Situational Theory)
条件適合理論および状況対応理論は、常に変化し進化し続ける人間を対象とするため、厄介なことに決まった特性や行動を扱うのではなく、状況に応じてリーダーシップを適応させることの重要性を強調したものです。
条件適合理論(Contingency Theory)とは、リーダーがリーダーシップを発揮する際には、文脈を意識する必要があると説いているに過ぎません。状況やチームによって異なるリーダーシップを発揮する必要があるため、リーダーシップは偶発的な変数であると言えます。
状況対応理論(Situational Leadership Theory)は、ポール・ハーシー博士とケネス・ブランチャード氏によって最初に開発され、その後ブランチャード氏が自身の研究の中で拡張したものです。拡張版でブランチャード氏は、チームの成熟度や開発レベルに対応させるべきものとして、リーダーシップの4つのタイプを設定しました。
- 指示型:明確な指示や命令を多く出し、サポート的な行動は最小限に留めるタイプ。自分のスキルや仕事への取り組みに自信がなく、しっかりとした指導を必要としている新入社員などに有効です。
- 指導型:明確な方向性を示したうえで、フィードバックなどの支援行動を多くとるタイプ。熱心でしっかり学びたいが、特定の物事を成し遂げる方法について完全な知識がない「熱心な初心者」に有効です。
- 支援型:指示はあまりせず、フィードバックやレビューなど、後ろから支えるような行動をとるタイプ。このタイプは、高機能でありながら何らかの問題を抱えていたり、困難な課題を乗り越えることができないチームメンバーに対して有効である場合があります。
- 権限委任型:最小限の指示と最小限のサポートを提供するタイプ。このタイプはほとんどのタスクを自分たちで達成することができるような成熟・発展したチームのためのものであり、リーダーは主にチームをまとめ、あらゆる決定を確認することだけが求められます。
重要ポイント:条件適応理論と状況対応理論は、どちらも一律のリーダーシップスタイルが存在しないことを明確にしています。リーダーはさまざまな状況に適応し、チームとともに変化していかなければならないのです。
4) 人間関係理論:権力、影響力についてと、変革的リーダーシップ(Transformative Leadership)と取引型リーダーシップ(Transactional Leadership)の比較
最後のリーダーシップ論は、リーダーとそのチームとの関係を中心に構成されており、権力と影響力のダイナミクスを中心に展開されることになります。権力形態理論では、リーダーシップのパワーは4つの立場的権力と2つの個人的権力に分類されます。
立場的権力の4つの源:
立場的権力の源は、あなたを取り巻く構造と、他の人々がリーダーシップの資質として評価するものにあります。
- 正当…地位、賞、栄誉、または役職から来る権限。
- 強制…罰したり、脅したりする力。
- 報酬…昇進、研修、良い任務、褒め言葉など、報酬を与える権限。
- 情報…他人が必要とする特定の価値ある知識、情報、またはスキルを持つことで得られる力。
個人的権力の2つの源:
対して個人的権力の源は自分の中にあるものであり、自分自身のスキルや知識に基づいた、リーダーとしての自信を持つことから発生します。
- 専門性・熟練度…特定の分野や幅広い分野に精通し、状況を的確に判断して解決策を講じることができる能力からくる自信。
- 周囲の反応…社会的な相互作用に長けており、他者の信頼と尊敬を得ることからくる自信。これは成功や達成の指標に基づかないため、一般的に専門性や熟練度から来る権力に比べると長期的な安定はしにくいと考えられています。
変革的リーダーシップ(Transformative Leadership)と取引型リーダーシップ(Transactional Leadership)
権力と影響力をベースとした同様のリーダーシップ理論に、変革型および取引型のリーダーシップモデルがあります。
変革的リーダーシップは管理職リーダーシップとも呼ばれ、「人々は報酬のために物事を行う」と仮定しているため、最も効果的なリーダーは報酬と罰を効果的に活用することができる人です。チームメンバーはリーダーから命令を受けて、厳しいガイドラインのもとで、慎重に監視されながら仕事を遂行します。
一方、取引型リーダーシップは、リーダーとチームとの関係をより相互的なものとして捉えたものです。リーダーはチームを鼓舞し、やる気を起こさせ、彼らの創造性を刺激することで最も効果的なリーダーシップを発揮します。また、チームは自らの行動を通じてリーダーを鼓舞し、より良く、より協力的になることができます。この関係において重要なのは、チームに対するビジョンを持ち、そのビジョンをチームメンバー全員に伝えることです。
重要ポイント:チーム内の権力と影響力のダイナミクスを理解することは、リーダーシップがどのように機能するか、特定の空間の中でのリーダーシップの役割は何か、そして実際に力を行使しているのは誰かを理解するために非常に重要です。しかし、権力は必ずしも強制やコントロールすることを目的として発動する必要はなく、変革やインスピレーションを与えるために使うこともできます。
最後に:新しいリーダーシップの理論に向けて
このように、リーダーシップに関する理論は多岐にわたり、人間関係、権力、行動、支援、影響力、仕事や人生における偶発性など、広大な領域をカバーしています。多くの情報をお伝えしましたが、私たちと同じように興味を持っていただけたなら幸いです。過去に遡って当時の考え方を覗き見ることは、将来の方向性を知る上で常に有益なことでもあります。
今回はここまで。ご紹介した過去のモデルにはきっと有用な点もあったことでしょうし、まだそこから学ぶこともたくさんあります。しかし、世界は急速に変化しています。私たちはもはや、オフィス文化や仕事中に上司が同席しているような特定の構造に頼ることはできません。ですから仕事や人生の他の部分と一緒に、リーダーシップの本質も変化しているのは明白なことでしょう。
これは自分たちのモデルを再構築し、新しいモデルを決定するまたとない機会です。ご紹介したような理論を用いて、是非自問してみてください。自身のチームにおけるリーダーシップはどのようなものか、そしてどのようにありたいのか?次のリーダーシップのモデルは、すぐそこに、そしてあなたの手の中にあるのです。