リモートワークへの大規模な移行は、ライフスタイルの変化やワークライフバランス、そして仕事に対する考え方といったあらゆる面で、多くの混乱を引き起こしてきました。リモートワークのポジティブな部分とネガティブな部分を同時に実感した人も多いことでしょう。ポジティブな面としては、エネルギーを大幅に浪費する通勤時間がなくなり、家で家族と過ごす時間が増えました。
一方で、物理的なオフィス空間で同僚に囲まれて「仕事中」であることを意識しない状況では、業務に集中するのが難しくなりがちです。また、現実で人々と交流することなくオンラインで仕事をしている時間が長くなると、疎外感を感じることもあります。このような状況は、長期的にはモチベーションの低下に繋がる恐れがあるため、注意が必要です。
リモートやハイブリッドといったチームの働き方がますます一般的になってきている今こそ、モチベーションやリモートワークに関する問題を今一度話し合うべきではないでしょうか。インバイトジャパンでは、パンデミックのかなり早い段階で完全なリモートワークに切り替えたため、同じような問題の多くを実際に経験してきました。
モチベーション × 生産性、その関係は?
この記事を書くために調査をしてみると、興味深いことが分かりました。PWCの調査によると、殆どのリモートワーカーは、リモートワークに切り替えてから生産性が向上したと感じているそうです。一方で、Lindsay McGregor氏とNeel Doshi氏が2010年から2015年にかけて行った調査によると、長期的にはオフィスワーカーよりもリモートワーカーの方がモチベーションが低下する可能性があるという結果が出ています。
さて、これはどういうことなのでしょう?モチベーションと生産性の間には、なぜこのような不可解なズレがあるのでしょうか?まず前提として、モチベーションと生産性に関しては、さまざまな異なるデータや矛盾するデータがあることを知っておく必要があります。最近の状況を完全かつ正確に測定するには時間が十分でなかったことは認めざるを得ません。
生産性に関するデータの多くは、パンデミックの初期に得られたものです。当時、先陣を切ってリモートワークに切り替えたのは、技術やスキル、仕事の性質上、自宅で仕事をするのに支障が少ない人たちでした。技術者やライター、ジャーナリストなどがこれに該当します。これらの職種は、リモートでの方が生産性が高くなるような土台が最初から既に出来ていました。
また、初期にリモートワークに切り替えた人たちが、「何か新しいことに挑戦している」ような新鮮な気分になり、生産性が向上したという可能性もあります。実際私たち自身もそう感じていました。しかし、この最初の気分の盛り上がりがある時点から下降していることにも気付いています。ここで必要なのは、この傾向が時間の経過に関わりがあるのかどうか、つまり生産性とモチベーションの変化が一体になっているかどうかについてのデータです。
私としては、リモートワークの導入が「生産性の向上」や「モチベーションの低下」を招くという点については、どちらも正しいと思っています。
モチベーションを上げるとはどういうことか?
生産性は、結果と行動(どれだけやったか)に基づいているため、定義や測定がある程度容易です。一方でモチベーションは感情に基づいており、非常に主観的なものであるためそうはいきません。
まずモチベーションは定義するのも難しいものです。モチベーションが高い=「やる気がある」かどうかは本人にしか分からず、周りから見て分かるというものでもありません。ひとまず「やる気」とは「何かをやりたい」「上手くやりたい」と思っているときの感覚だとしましょう。
モチベーションを感覚的なものと定義しても、その力が弱まる訳でも、注目に値しない訳でもありません。ただ、感覚的なものであるということは、モチベーションの低下に対処する方法は一つではなく、さらに波があったり、しばらく続いたりする可能性があるということにはなるでしょう。
しかし、生産性が向上しているにも関わらず、リモートワーカーのモチベーションが低下している理由は、この点にあるのではないかと私は考えています。つまり、モチベーションは仕事での生産性に関わらず、パンデミックに対する一般的な不安、経済状況、社会的な繋がりなどに影響される可能性があるということです。
私たちリモートワーカーの多くが、自宅で一人という状況でも、周囲の人や騒音、ドラマなどに気を取られることなく、多くの仕事をこなせることに気付いているのは想像に難くありません。日常的に、コンスタントに仕事をこなすだけであれば簡単なのです。しかし、もしかしたら私たちには、私たちをさらに上のレベルへと押し上げる、言葉では言い表せないようなモチベーションの高まりが(常にではないかもしれませんが)不足しているのかもしれません。
リモートワークがモチベーションに与える影響は?
モチベーションが様々な要因に影響されることは明らかで、その多くは仕事とは関係ないものかもしれません。しかし、リモートワークによって影響を受けたり、弱まったりしている仕事の側面があるのも事実であり、それが仕事のモチベーション低下に直結している可能性もあるでしょう。
McGregor氏とDoshi氏は、彼らの研究を紹介した上記と同じHarvard Business Reviewの記事の中で、リモートワークによって悪影響を受ける3つの「モチベーション」を特定しました。
- Play(遊び/戯れ)- 仕事から得られる「喜び」や、人と一緒に問題を解決することによって得られるもの。また、同僚とお喋りしたり、何気なく交流したりすることでも得られる「喜び」もその一つと言えるでしょう。当然、リモートワークではこのような交流の機会は少なくなります。
- Purpose(目的)- あなたが会社にどのような影響を与えているか、そしてあなたの仕事についてどのようなフィードバックを得ているかを目に見える形で示すもの。リモートワークでは、最終製品やプロジェクトの最終段階における自分の影響を間近で見ることができません。
- Potential(可能性)- あなたが会社での将来の機会や、継続的な開発やトレーニングをどのように考えているかということ。リモートワークにより、多くの人が指導を受けたり、会社の他の分野に進出するチャンスがあるとは思わなくなりました。これは多くのリモートワーカーが現在の仕事に「行き詰まり」を感じることに繋がります。
以上のことから、リモートワークは職場の人間関係に影響を与え、それがモチベーションの低下に繋がるということが分かります。
特に仕事におけるモチベーションは、人間関係や他人との関わり方と密接に関係しています。私たちは自分の価値の多くを仕事や地位から得ており、自分が何をしているかによって自分自身を定義しています。そして職場での自分の姿や、同僚が自分をどのように見ているか(尊敬しているか、あるいは見下しているか)に関連して、評判やステータスを注意深く作り上げているのです。
リモートワークでは他者と仕事を結びつける社会的な方法の多くが失われ、それに伴い、人に承認される機会も失われています。それにより、当然多くの人がモチベーションの低下を感じる状況に陥っているのです。
モチベーションを維持するためにできること
もちろん、自己肯定感は職場の他の人からしか得られないものではありません。私たちは自分自身の価値観を持ち、自分の仕事ぶりや達成できることについて独自の概念を持っています。これは過去の経験や達成したこと、仕事以外の人間関係などに基づいて形作られたものです。ですから、職場の人間関係から得られるモチベーションの多くがリモートワークでは制限されてしまうとしても、それは全てのモチベーションの終わりを意味するものではありません。
モチベーションの低下に気付くことができれば、状況を変え、仕事や生活の仕方を再構築して、モチベーションを高められるように…いや、モチベーションを高めるための環境を整えられるようになります。また、上記の「3つのモチベーション」を参考に、モチベーションの低下がどこから来ているのかを考えてみることも有効でしょう。少しの工夫と努力をしてみれば、社会的に有益なモチベーションを取り戻すのは不可能なことではないのです。
今のリモートワークのやり方は、パンデミックの初期に切り替えた時の習慣がベースになっていることが多いと思います。そのため、その習慣を見直したり、「どうすれば改善できるか」「リモートワークの違う受け止め方はないか」などについて再考することを忘れがちです。
それを踏まえて、ここではリモートワークや自分のモチベーションについて、いくつかの考え方や再考の方法をご紹介します。
1. 新しい機会の可能性を見出す
リモートワークは自分の働き方を見直し、人生を一変させる「自己管理」の方法を身に着ける、実に良い機会にもなり得ます。また、他のチームメンバーからトレーニングを受けることは難しいですが、自宅で仕事をしながら新しいスキルを身につける方法は無数にあります。
2. モチベーションが変動することを理解する
モチベーションが下がったときは実に辛いものですが、他の感情と同様、永遠に続く訳ではないことを理解しましょう。そのモチベーションの低さを利用して、なぜそうなっているのか(仕事に限らず)理由を探れば、より強くなって乗り越えることができるかもしれません。
3. 一日一日を大切にする
リモートで仕事をしていると、同じ日が何度も繰り返されているような気がしたり、一日一日が混ざり合っているような感覚に陥ることがあります。仕事でもプライベートでも、一日一日を特別でユニークなものとして捉え、たとえ前日に気分が落ち込んでいたとしても、新鮮な気持ちで一日を過ごすように心掛けましょう。
4. 繋がりを保ち続ける
リモートワークは孤独なものです。そしてその孤独を常態化させてしまうと、今度は以前のように人とコミュニケーションを取りたくなくなってしまうことがあります。それを防ぐためにできる限り同僚に連絡を取り、自分の周りの人やサポートシステムとコミュニケーションを取るようにしましょう。可能であれば、上司に相談して、新しいことに挑戦するより多くの機会や方法を見付けましょう。
5. 一人ではないことを知る
リモートワーカーは孤独であるため、自分だけが世界を相手にしているような錯覚に陥りがちです。しかし、実際は誰もが同じような経験をしています。単純ですがそれを認識することが非常に大切なのです。不安や恐怖に対峙しているのは自分だけではない…その感覚がきっと心の支えになります。
次回は
今回はモチベーションの構造と、リモートワーク中にモチベーションを維持する方法についてのシリーズの第1回をお届けしました。今後はモチベーションを上げるための実践的な方法や、マネージャーやチームリーダーがリモートチームのモチベーションを上げるために有効なアドバイスなどをご紹介していきますのでお楽しみに。
また、インバイトジャパンのサービスページでは、リモートチームやハイブリッドチーム向けの素晴らしいチームビルディングプログラムをご紹介していますので、是非ご活用ください。