謎解きパズルやチームビルディングのアクティビティを制作する会社として、私たちが好んで使う言葉のひとつに「thinking outside the box」というものがあります。日本語にすると「既存の枠組みや、既成概念にとらわれない発想をする」といったところでしょうか。最近では既に使い古された表現ですが、「異なる考え方をする」という意味では、未だに良い表現だと思っています。私たちのゲームのプレイヤー達に 「thinking outside the box」という言葉を投げかけることで、自分が無意識のうちに普段収まっている枠組みやコンフォートゾーンから一歩外に出て、別の視点から物事を見てもらおうというのがその目的です。
しかし「thinking outside the box」というのは本当に有効な方法なのでしょうか?
そんなことを考えている時、経済誌のジャーナリストで、技術、AI、ビッグデータについて執筆しているケネス・クキエ氏の最近のインタビューが目に留まりました。その内容は、「私たちは”箱”に頼って生きているのだから、”箱の外”で考えるというのは欠陥のある概念だ」というクキエ氏の主張でした。言い換えれば、より重要なのは、「自分が考えている箱を認識し、それについて学ぶこと」だということです。
私たちの会社では、「考える」ことや「異なる考え方をする」ことをとても重要視しているため、このインタビューとそこで披露されたアイデアに私はとても惹かれました。そして私たちが普段考えやアイデアをどのように捉えているのか、また世界をどのように見てどのように表現しているのか、そしてそれらがなぜ重要なのかなど、いろいろと考えさせられたのです。
そこで今回のブログ記事では、ケネス・クキエの中心的な主張と、そこから思考とチームビルディングに関して得られるもの、そして私が抱いた批判についてお話したいと思います。これからお話ししていきますが、既成概念にとらわれない発想をするためのアプローチは、多くの場合、「思考についてどのように考えるか」に基づいています。どうぞお楽しみください。
「Thinking Outside The Box」という概念の欠陥とは
まずクキエ氏は「Thinking outside the box」を批判するに際して、「箱」を思考の「枠」として定義することを軸にしています。窓枠が視界を決めるのと同じように、思考の枠が世界をどう見るか、問題や新しい展開をどう捉えて考えるかを決めるという意味です。
思考の枠組みは、世界に対する仮定、理想、価値観、文化、教育や知識ベースなど、さまざまなものに基づいています。人にはそれぞれ個性があるように、私たちにもそれぞれの「枠」があるということです。
この定義に基づけば、自分の思考の枠の外に出ることは有用ではない、あるいはもはや可能ですらないかもしれません。基本的に、人は自分の枠を放棄することはできないからです。そこで成長のために有用かつ可能なのは、自分が持っている枠を意識し、それを理解することです。これについてクキエ氏は、「魔法は箱の中にある」と説明しています。
他者との相互作用と、問題解決への役立て方
今の話は、自分自身の枠が、他人を理解することや、新しい情報を取り込むために必要な枠の成長の妨げになるということを必ずしも意味している訳ではありません。人と接する時は、自分自身の考え方に気付くことによって、相手の考え方をより良く理解することができます。クキエ氏によると、自分の思考の枠の限界を認識することで、そのギャップを埋めるのに役立つ他者の視点をより受け入れることができるようになるため、実際に他者との交流がより上手くいくようになるのだそうです。
つまり、他の人や経験、そして他の枠に触れることで、自分の考え方の枠を広げることができるということです。これは「testing your assumptions / 自分の前提を試す」というのと同じで、新しい挑戦に臨み、対応できるようになるために重要なことでもあります。
ではここで、現代社会における実例を挙げてみましょう。新型コロナウイルスのパンデミックが発生した当初、各国の対応はそれぞれの歴史的な経験に基づいて、主に「緩和」と「排除」という2つの枠に分れました。1つ目は、季節性インフルエンザの経験に基づくもので、医療システムへの負担を抑えるために、単純に患者数を減らすことを目的としたものです。そしてもう1つは、他のSARSウイルスの経験に基づくもので、ウイルスの地域感染をできるだけ早く止めるために、抜本的な対策を取るというものでした。
この考え方によると、第1の枠「緩和」でスタートした国(一般的にはヨーロッパや北米)は、第2の枠「排除」を既に念頭に置いていた国(一般的にはアジアや太平洋諸国)に比べて、ウイルスの初期の封じ込めで思うような成果を出せない傾向がありました。そして緩和策を取っていた国は、未曽有の事態を乗り越えるために枠を広げて、改めて排除策を政策に取り入れる必要に迫られたのです。
簡略化しすぎていると思われるかもしれませんが、この1年半のパンデミックの多くの部分において、私たちは個人的にも集団的にも、新しい情報や変化する状況に対応して「思考の枠組みを広げることを学ぶこと」が求められていたのは事実と言えるでしょう。
個人とチームの枠を認識し、チームワークを伸ばす
非常に重い実例ではありましたが、「枠」という概念がチームでどのように役立つかを理解する助けになったのではないでしょうか。対人関係の難しさの多くは、コミュニケーションミスに起因しています。しかし「誰もが自分の枠を持っている」ということを理解することができれば、一歩下がってその枠を理解し、さらにその人がどこから来たのかを理解しようとすることが容易になるでしょう。
そうすれば相手の考えを否定したり、自分の言いたいことを理解してもらえないことに腹を立てたりするのではなく、相手が持っている前提や、相手の考え方を形成した経験などを把握して、問題をより抜本的に解決し、理解を深めることができます。
このような姿勢を持つことは、チームメンバーがお互いを認め合うことにも繋がり、チームにとって非常に有益です。また、チーム全体の「枠」を考えるのも良いでしょう。具体的には、自分のチームの考え方にはどんな前提や価値観、過去の経験があるのか。その枠はどうすれば拡大・拡張することができるのか。新しいメンバーの枠を取り入れることがどのようにチームに作用するかなど…チームの新しい可能性がそこにあるように感じませんか?
まとめ:「Thinking Outside The Box / 既成概念にとらわれない発想」は可能なのか?
では、実際に「Thinking Outside The Box / 既成概念にとらわれない発想」をすることはできるのでしょうか?上記を見る限り、クキエ氏は明確に「できない」と考えているようですが、私はもう少し意見が揺れていて、まだ試してみる価値があると思っています。
確かに「既成概念にとらわれない」というのは、昔から繰り返し使われてきた言葉です。人によっては、うわべだけの言葉だとか、陳腐な表現だとかいう見方もあるかもしれません。しかし、この言葉が真に意味するのは、「新しいアイデアを受け入れ、実験する精神」です。
常に既成概念にとらわれずにいることはできないかもしれませんが、新しいアイデアや経験に没頭するのが良い時もあるでしょう。また、自分の考えの限界を試してみたり、真に柔軟に考えて、全く違う発想が出てくるかどうかを試すのが良い時もあるのではないでしょうか。
最後に大切なこととして、言語を含とある思考方法に固執するあまり、時に息苦しくなったり、特定の行動に拘泥してしまうことがあるということを覚えておきましょう。そういう意味では、「既成概念にとらわれない」という言い方をするかどうかは別にして、自分がどのように考えているのか、どうすれば変えられるのかを常に考えておくのは良いことなのかもしれません。
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