マルチタスクがチームの集中力と生産性を低下させる理由と、チームができること

マルチタスクは生産性の向上に役立つとされ、デジタル時代には必要だとも言われていますが、実際はどうなのでしょうか。ここでは、マルチタスクがチームに与える悪影響と、その代わりにチームができることについて見ていきます。

現代のデジタル社会では、多くの人にとって、仕事でもプライベートでも、マルチタスクがほとんど当たり前の状態になっています。食事をしながら仕事をし、テレビを見ながら、あるいはデートに出かけながら携帯電話をチェックし、料理や皿洗いをしながら音楽やポッドキャストを聴くということに、私たちは慣れてしまっているのです。

このようなマルチタスクの普及の一因は、私たちを取り囲むテクノロジーにあります。情報、エンターテインメント、そして仕事に至るまで、いつでも簡単にアクセスできるようになったのです。また、テクノロジー自体もマルチタスク用に設計されており、複数のブラウザやタブ、アプリケーションを一度に開くことができるようになっています。

このようなマルチタスクが、私たちの集中力にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。私たちはもう何年も前から、マルチタスクが生産性の新しい形態であり、成功するためにはそれに慣れる必要があると言われてきました。そして、世代が変わるごとに、仮想世界と物理世界をシームレスに行き来できるデジタルネイティブの新しい「マルチタスク世代」として歓迎され、あたかもそれが人類の進化の次の段階を示すかのように言われています。

しかし、最近の研究では、マルチタスクがすべてではないという結論に達しています。特に仕事に関しては、集中力や生産性を低下させている可能性があるのです。

マルチタスクの主なストレスポイントは「注意力」と「ワークフロー」であり、これがチームやチームビルディングにとっての問題点になっています。そこで今回は、マルチタスクの何がチームにとって問題なのかを調査し、この働き方をチーム環境にとってより良い、健康的なものに置き換えるために何ができるかを考えていきます。

マルチタスクとは?

まず、マルチタスクとは何なのかを考えてみましょう。一般的に使われている「マルチタスク」の意味はなんとなくわかっていても、「複数の作業を同時に行うこと」と一言で表せるほど簡単なことではありません。実は「マルチタスク」という言葉だけでは、複数のことを同時にやろうとするときに、実際に何が起こっているのかを理解することはできないのです。

というのも、簡単に言えば、複数のタスクを同時にこなすことは実際にはできないからです。実際にやっているのは、短時間のうちにタスクを「切り替える」作業です。また、複数のタスクを同時にこなしているつもりでも、たとえ短時間であっても、必ず1つは後回しにされる作業が出てしまいます。

暗黙の了解でそうなっていることは、誰もが認識していると思いますが、以前からの具体例である「夕食を食べながらテレビを見る」という例で見てみましょう。この2つは比較的単純な作業なので、割と簡単に切り替えができます。それでも、食事をしようと下を向いた瞬間、あるいは口の中で食べ物の味を感じた瞬間、テレビで見たり聞いたりしていることから(たとえ一瞬でも)集中がずれてしまうのです。

ですから、本当はマルチタスクのことは「タスクスイッチング」と呼ぶべきなのですが、それでは色気もなく、負担も大きいように聞こえるでしょう。今の例の場合など、状況によっては切り替えが目立たないこともあるかもしれませんが、それでも実際には切り替えは起こっています。ということは、より多くの注意や認知能力を必要とするタスクでは、タスクの切り替えとそのコストはより大きくなるのです。

タスクスイッチングに掛かるコスト 

マルチタスクの問題点について語るとき、それが意味するのは、2つ(またはそれ以上)のタスクの間を絶えず切り替えることに発生するコストが存在するということです。これは時間とエネルギーという形で現れます。あるタスクから別のタスクに切り替えるには実際に時間がかかり、マルチタスクは個人の生産時間の約40%を食い潰すと言う研究者もいます。

また、マルチタスクには精神的なエネルギーも必要とされます。ある作業から別の作業へと精神的にシフトすることは、必ずしも簡単なことではありません。例えば、メールをしながら運転することなどはその良い例でしょう。この2つのタスクが必要とするのは異なる領域の注意と集中だとしても、それでも複雑なものであることには変わりません。さらに、この2つを同時に行おうとすると、難しいだけでなく、ご想像の通り非常に危険です。

もちろん、その確率が常にそんなに高いものである訳ではありませんが、要点はおわかりいただけるでしょう。精神的に複雑な作業をする場合、私たちの脳は一度に1つにしか集中することができません。2つのことを同時にやろうとすると、常に頭を切り替える作業が必要になり、必然的に1つの作業に集中することになるのです。

ではここからは、このコストをチームでの作業に当てはめて、マルチタスクが存在する場合に、チームの生産性にどのような大きな影響を及ぼすかを見てみましょう。ここでは、タスクスイッチのコストを負担する4つの主要な領域について見ていきます。

1. 意識(自覚がない)

マルチタスクによって最初に打撃を受けるのは、「意識」です。つまり、今やっていることに集中することができなくなるのです。これは、切り替えにかかる精神的コストと、常に1つのタスクに集中することになるために起こります。このように常に切り替えを繰り返すと、常に精神的に「追いつこう」としてしまうため、結果としてどのタスクにも注意が向かなくなります。

注意力が欠けていると、仕事のミスに繋がりますし、実際、マルチタスクを実践する人はより多くのミスを犯す傾向があることを示唆する研究もあります。しかし、たとえミスをしなくても、自分のしていることへの意識や自覚の欠如は、実は時間とともにモチベーションを低下させることにも繋がってしまうのです。

2. 集中力(大切なものから目を逸らしてしまう)

これはマルチタスクの影響を受ける次の領域、「集中力」につながっています。ここでいう「集中力」とは、目標やモチベーションを見極め、それを実現するための重要な仕事に集中する力のことです。

一度に多くのタスクに集中しようとすると、それぞれのタスクがなぜそれ自体で重要なのか、また、それぞれのタスクの中で重要なプロセスが特別であることを見失いがちになってしまいます。そうすると、それぞれのタスクがなぜ重要なのかを理解するよりも、単にタスクをこなすことが目的になってしまうのです。

この場合も、長期的にはモチベーションの低下や燃え尽き症候群を引き起こすことになります。なぜそのようなことをしているのか、なぜそれが重要なのかがわからなくなると、やる気も失せますし、「やらなければならない」という事実以外には何も感じられなくなってしまうのです。

3. ワークフロー(過負荷を感じる)

マルチタスクのもう一つの影響は、作業に圧倒され、過負荷を感じることです。そして、ここがマルチタスクの影響を最も明確に表しているところでもあります。一度に多くの作業を引き受けて、同時にやらなければならないことに圧倒されてしまったという経験をしたことがある人は少なくないでしょう。特に、前項で述べたように、マルチタスクは重要なことを本当に認識する能力を制限してしまいます。

また、マルチタスクはより高い期待も生み出してしまうという危険な側面も持っています。誰もが一度に複数の仕事をこなせることを前提とした職場環境では、チームの基準が常に高くなり、全員に負担のかかる仕事が発生します。また、特定の仕事を、その仕事を最も得意とするメンバーに任せることができているとも限りません。

一度に多くの仕事をこなさなければならないことは、より大きなストレスとなります。そしてこのストレスは、多くの場合、圧倒されすぎて仕事への意欲を失ってしまう「燃え尽き症候群」に繋がるのです。

4. 生産性(物事をうまく進めることができない)

その結果、「生産性」が低下してしまうのです。マルチタスクを使えばより多くの仕事をこなせるように感じるので、生産性の高いワークスタイルだと思われるかもしれませんが、それは以下の2つの理由から間違っています。

まず、より多くの仕事をこなせるようになるわけではありません。先ほども言ったように、実際には2つのタスクを同時に行っているわけではなく、切り替えているだけなのです。そして、切り替えによって、両方の仕事から時間と集中力が奪われてしまっています。このため、マルチタスクを行うと、忙しくなった(疲れた)ように感じるにもかかわらず、実際には何もできていないと感じる人が多いのです。  

次に、マルチタスクでは実は物事が上手くいかないという点が挙げられます。ミスをしたり、集中できなかったり、気が散りやすかったり。さらに、タスクの過多からストレスがたまり、生産性が低下することもあります。

もちろん、マルチタスクで生産性を上げることが決してできないわけではありません。しかし、個人でもチームでも、そのレベルの生産性を維持することはできません。いずれは壁に突き当たってしまうでしょう。

マルチタスクの代わりにすべきこと

その答えは、「一度に1つのタスクに集中する」ことです。これこそが、タスクに集中し、ワークフローをコントロールし、生産性(と精神的健康)を維持する唯一の方法なのです。しかし、これは「言うは易し」と言われてしまうでしょう。先に述べたように、私たちはマルチタスクを奨励する世の中に生きています。

そこで質問です。マルチタスクを制限する環境を作るために、あなたのチームは何ができるでしょうか? 

1. チームで何が大切かを一緒に考える

先に述べたように、マルチタスクは何が本当に重要なのかを見極めることを難しくします。実際、多くの場合、マルチタスクは確固たる目標の欠如を覆い隠すために使われているかもしれません。タスクが多すぎて、自分がなぜそこにいるのかを考える余裕がないのです。しかし、チームとしての目標や役割を明確にすることで、優先すべきタスクとそうでないタスクが明確になり、自分が何をしているのか、なぜそこにいるのかを理解することができます。

2.創造的気晴らしを(一緒に)行う

マルチタスクで得られる熱狂的なエネルギーを欲することもあれば、退屈を感じて他のことをしたくなることもあるでしょう。このような感情は、特に現代では自然なことであり、それに抗おうとするのは無意味なことと言えます。

しかし、単にたくさんの画面と複雑なタスクでマルチタスクを行うのではなく、休憩を取り、少し創造的な気晴らしを行ってみてはどうでしょうか。つまり、散歩や絵を描いたり、同僚と会話をするなど、エネルギーや創造力を刺激する短い休憩を取るのです。

そのようなアクティビティは、あらゆる過負荷からあなたを解放し、あなたが持つ余分なエネルギーのはけ口となってくれるでしょう。しかも、その後に余計な疲れが残ることもありません。

例えば、パズルは素晴らしい創造的気晴らしになるうえ、プロセスの各ステップに個別に集中することを教えてくれます。チームで行う場合、パズルや謎解きのような創造的気晴らしは、チームの対人関係の強化にも役立ちます(下記参照)。

3. より協力的な環境を構築する 

マルチタスクはチームスポーツではありません。実際、チームという文脈において「マルチタスク」という言葉は無意味なものになってしまいます。チーム全体をマルチタスクの構造と捉えれば、確かに同時に多くのことを行えていると言えるでしょう。大きな違いは、チームはさまざまな人が集まっているので、元々一度にたくさんのことを成し遂げられるということです。 

つまり、チームが機能していれば、マルチタスクは不要なのです。一人ですべてをこなす必要はなく、周りに助けてくれる人がいるからです。だから、チーム本来の力である協力関係を活用しましょう。

チームが協力的な環境を作れば、チームメンバーは仕事を引き受け、助けが必要なときや新しいアイデアが必要なとき、ワークフローの一部をおろす必要があるときに、簡単にコミュニケーションをとることができます。

また、協力することはチームの集中力を高めてもくれます。一人では頭の中が混乱し、タスクからタスクへと無駄な移動を繰り返してしまうこともあるでしょう。しかし、チームとして働く場合は、他のチームメンバーや、チームがまとまるためのプロセスを考慮しなければなりません。

4. 時間をかけて真の人間関係を構築する      

そこで、マルチタスクに偏らないより良いチーム環境を作るために、チームができる最後の、そしておそらく最も重要なこと、それは真の人間関係の構築に注力することです。

マルチタスクという現象は、私たちがインターネットをよく利用するようになってから、初めて出現したものです。つまり、1人で過ごす時間が増え、物理的に他の人の近くにいないことが心地よく感じられるようになってからと言い換えることもできるでしょう。ネット上の人間関係やコミュニティを否定するわけではありませんが、ネット上の人間関係と現実世界の人間関係には違いがあるのです。

人間関係は私たちを繋ぐものであり、オンライン生活や仕事における有害な部分から私たちを遠ざけることができるものです。なので、そのサポートは不可欠なものであり、チームにとってそれは二重の意味で必要なものとなっています。特に、リモートワークやハイブリッドワークでは、チームはリアルタイムで関係を構築する必要があります。

定期的にチームビルディングを計画することは、その第一歩です。コーヒーブレイクやハッピーアワーを時々一緒にするだけでも、チームのコミュニケーションやコラボレーションの糸が強化され、違いが出てきます。もちろん、インバイトジャパンが提供するようなチームビルディングのアクティビティも間違いなく有効です。 

最後に

この現状に対して指をくわえてただ見ている訳にはいきません。私たちは現代の生活および仕事における困難やプレッシャーを知っています。マルチタスクは常に存在し、おそらくこれからも長い間(少なくとも私たちがスクリーンを見ている限り)、私たちとともに在り続けるでしょう。しかし、マルチタスクの悪影響を認識し、マルチタスクが引き起こす負担を軽減する方法があることを知っておくことは重要です。

最も重要なことは、すべてが今のままである必要はないということを認識することです。あなたとあなたのチームは、あなたが望む環境、あなたとあなたのチームの成功と生産性に最も貢献する環境を、一緒に作ることができるのです。   

チームビルディング完全
ガイドブック

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吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。